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増税論の誤謬:「増税したいなら理論の否定が必要」
 増税論の誤謬:「増税したいなら理論の否定が必要」
 
前回からの続きです。

 東大の教授たちや高名な学者たちは、消費税増税後に下がりまた元に回復するまで上がった経済指標を見て錯覚を抱きました。消費税の増税と景気の影響の間には、何の関係もない。だって、経済指標は元の値に戻っているじゃないか。

 おまけに彼らが見落としていたことがいくつもあります。まず、前回説明した経済白書の記述です。引用された資料にちゃんと目を通せば、白書をまとめた専門家たちが、当時の日本経済に与えた消費税の影響や、そこから回復にいたるまでの過程とメカニズムを説明してくれています。

 次に、相関関係と因果関係の取り違えというミスを犯しました。日が昇れば気温が上がります。また、証券取引場の株価も上がります。しかし、この二つを関連付けることはできません。別々の原因で起こることだからです。ところが、このミスをやったのが、今回の経済学者たちです。

 最後に、基本的なマクロ経済学の理論を理解できていませんでした。今回の増税論議は、マクロ経済学では社会的余剰と死荷重という理論にまとめられています。消費税は景気に影響を与えないと主張したい経済学者は、この理論を否定しなければなりません。しかし、議事録を読むかぎり、どの学者たちも社会的余剰と死荷重には、一言も触れていません。彼らは自分たちが論議していることが、社会的余剰と死荷重の理論に関わることだと気付いていないのです。

 学者たちは首をそろえて、消費税は景気を悪化させないのだと信じこみ、死荷重の理論の存在に気付かないまま、どうすればそれを説明できるのか首をひねっていたのが、今回の増税論議の内実でした。

 増税論者がしなければならなかったのは、経済理論の否定でした。

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木目画像経済指標から、消費税は景気には無関係とされた木目画像


 次に上げるのは、前回説明した井堀教授が審議会で配布した資料の一部です。消費税増税時の経済指標の変化をグラフに表したものです。

井堀教授の経済指標

 会合において、このグラフを説明する井堀教授が以下のコメントを残しています。

消費税の引上げが景気後退の主要な要因だというのは、なかなかこの指標を見る限り言いにくいということです。
 こうして消費税は景気に影響を与えないことにされてしまいました。しかし、前回説明した通り、増税は景気は悪化させ、景気回復にある日本経済が、この指標を元の水準にもどしてくれたのです。
 
 では、こんな経済指標の移り変わりを見たなら、どう受け止めればよういのでしょうか。これは、相関関係と因果関係の扱い方を学べば簡単に理解できます。

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木目画像相関関係と因果関係は別木目画像

 物事の関係を説明する用語に、相関関係と因果関係があります。

 相関関係は、観察している対象Aと対象Bの変化が、一致する関係を指します。
 因果関係は、対象Aが変化すると、対象Bが必ず変化する関係を指します。

 ここで大事なのは、相関関係があっても、因果関係があることを証明できないことです。他の理由で変化しているかも知れないからです。

偶然

 ライブドア・ショックによって、日本の株価は下落しました。そこで仮にですが、同日ナイジェリアの株価も、企業の不祥事によって下落していたとします。この二つには、なんの因果関係もありませんよね。

因果関係が逆

 消費が伸びる時期と求人数が増える時期は一致します。ならば次の仮定を立てることができます。求人が増えれば、消費が増えると考えてもいいんじゃないですか。きっと、勤労者の所得が増え、それで消費が伸びたんです、と。もちろん、実際には因果関係は逆です。消費が伸び、企業が忙しくなり人手不足。それで求人数が増えるのです。

第三の要因

 世界不況の発生時、円は20以上下落、株価も6千円台に急落しました。ならば、次の仮定を立てることができます。これは円高不況です。日本経済ではよくあることじゃないですか、と。もちろん、実際はアメリカでサブプライム・ローンが破綻したからです。不安に思った投資家は、ファンドから資金を引き上げました。返還を迫られたファンドは、 日本の株式を売却、その円をドルに換えて、アメリカに持ち帰りました。

 今回の増税論議において、政治家も経済学者も有識者もみんな、相関関係を因果関係と錯覚して論じています。経済指標を見れば、消費税が上がっても指標は時期に回復している。だから、この二つの間に因果関係はないとされたのです。それで、消費税は景気に影響を与えないとされたのです。もちろん、誤りです。前回説明した経済白書が指摘するのは、消費税が景気を悪化させ、回復期にある日本経済が、景気を元の水準まで回復させたことです。

 そもそも、経済学の理論では、付加価値税は景気を悪化させると説明しています。増税で景気が悪くなるのは、最初から予想されたことなのです。

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木目画像死荷重を理解していなかった木目画像

 経済学の理論では、付加価値税を引き上げると、景気に損失を与えるとしています。増税前と比べて消費者・企業・政府が受け取る利益の総額が減るからです。

 死荷重と呼ばれています。簡潔に説明します。付加価値税を導入すれば、必ず景気に悪影響をおよぼすと結論付けます。これは、増税による政府の税収増がいくらであろうが、変わらない結論です。

 また税の支出目的とは無関係です。有識者たちは税収の使い道しだいでは景気を浮揚できると主張していましたが、誤りです。


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簡単コラム 社会的余剰と死荷重

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 ここで、死荷重を理解するためのコラムを設けます。内容を読み飛ばしても本論を理解するのに、差し支えありませんが、付加価値税がどうして必ず社会の利益が損なうのか、簡単に理解することができます。


 まず自分個人で物を作り、自分の社会生活のために享受すると仮定します。これは、一個あたりの金額に個数をかけあわせたものです(高い物まで安い物までくまなく作っています)。この総額を仮に、”受け取る恩恵”と名づけましょう。

 ひょっとするとこれをお読みのみなさんには、物の値打ちを金額に換算することに違和感を感じるかもしれません。物の値打ち、プライスレスとか。これは経済学における、便宜上のものです。他人の心の中まで測ることはできません。しかし、金銭換算なら共通の物差しとして使うことができます。


余剰1

 上の図では、緑の線に囲まれた範囲が受け取る恩恵になります。自分のために作ってやった分が生み出すメリットです。

 次に上の図にいくつかの変更を加えてやります。まず、費用の欄を作ります。何からなにまで自分で作っていたら手間がかかってしょうがない(DASH村の手作り作業なんか大変ですよね)。そこで、お金を払って部品を購入するとします。この分を費用として計上します。費用の分だけ、自分が受け取る恩恵は減ってしまいます。

 また、作る個数も減ってしまいます。お金を払ってまで作るのは割に合わないからです。個数をあらわす赤の縦線で表示します。

 最後に、自分ひとりでつくるだけでなく、社会みんなでつくっていると仮定を変えます。恩恵の名称も、社会的余剰と変わってしまいます(経済学用語です)。


余剰2


 上の図では、個数は赤の縦線まで減少します。また赤い線で囲まれた三角形の費用の分だけ、恩恵します。緑の線で囲まれた三角形の分が、社会みんなが受け取れる恩恵です。名前は社会的剰余です。

 次に、社会みんなで手作りするのではなく、お店で売っている物をお金を払って買うとします。しかし、お店のひとも自分の生活があります。お店のひとが受け取る分の恩恵も考えないといけません。欧米人が打ち立てた経済学では、両者の利益を最大化するために折半する、とします(理屈分かります?)。日本人的には、割り勘なら両者損はない、と言ったところです。

 お店のひとが受け取る分を生産者余剰、消費者が受け取る分を消費者余剰とします。
余剰3


 上の図では、黄色の線で囲まれた三角形がお店のひとが受け取る分、生産者剰余です。水色の線で囲まれた三角形が消費者の受け取る分、消費者余剰です。この二つを足し合わせると、社会的余剰になります。


 この図に最後の変更を加えます。付加価値税をかけるのです。

 まず価格が上昇するため、個数が減ります。個数をあらわす赤の縦線が左へ移動します。これで、個数の減少を表します。

 次に税収の欄をつくります。付加価値税の額面に個数をかけ合せた数字で表すことができます。

余剰4

 上の図では、紫の線で囲まれた四角形が税収です。消費者余剰と生産者余剰と税収を足し合わせたものが、消費者と生産者と政府が受け取る恩恵です。

 ところが、価格の上昇に伴い個数は減少しました。この分だけ、社会全体が受け取る恩恵が減少してしまいます。これが死荷重と呼ばれるものです。

 付加価値税を導入したり税率を上げると、必ず社会全体が受け取る恩恵が減ることが分かります。つまり、消費税(これだって付加価値税の一種です)を上げると、必ず景気に悪影響が出るのです。

 これがマクロ経済学で説明される社会的余剰と死荷重の理論です。経済学の教科書に必ず載っている基本です。

木目画像簡単コラム 社会的余剰と死荷重 木目画像 終わり

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木目画像理論で証明されていることを否定しようとした木目画像

 付加価値税には必ず死荷重がつきまとうことが分かっていれば、「付加価値税を引き上げても、景気に影響を与えません」と言われても、すぐ誤りに気づきます。なんか別の要因で景気が下がらなかったんじゃないの? G20に出席した菅首相は消費税増税のよる景気浮揚策を提唱しましたが、国際会議の席上で誰からも相手にされませんでした。これが健全な反応だと思います。

 ところが国内では様相が一変します。経済学の専門家は、学者からエコノミストから消費税増税に関わった政治家(97年のも今回のも)も、マクロ経済学の基本である死荷重に触れる問題だと気付かず、消費税を引き上げても景気に悪影響を与えないのじゃないのかと信じています。どうしたらその信念を国民に納得させられるのか、死荷重の理論に気付かないまま、手探りで議論していたのが、今回の増税論議の真相です。

 審議会のおいて、学者たちはこんな論議をしています。

平成9年の消費税引上げをどう考えるかということなのですけれども、このときの1つのポイントは、その前に先行的に所得税の減税が行われてきて、所得税の 減税と消費税の増税はネットで見るとほぼ税収中立なので、その意味では税負担全体ではそれほどの増税効果がなかった。(中略)要するに消費はそれほど影響は受けないということです。
 井堀教授は、97年の増税が景気に影響を与えなかった原因について、所得税減税が併せて実施されたからではないかと、推測しています。もう、消費税と景気の 因果関係とは無関係です! 別の見方をすれば、所得税減税がなければ、消費税を増税すると景気が悪化すると、井堀教授は認めているのです。

 また、中央大学の冨田俊基教授が、井堀教授の主張を受けて次のように発言しています。

先ほど井堀先生からお話がございましたように、景気後退の主な原因は消費税ではなかったという。私もそのとおりだと思うのです。
 この発言は、97年の景気悪化の原因は増税だはないと主張するにとどまりません。消費税は景気に影響を与えないと敷衍されます。

さらに所得税減税とワンセットでネット増税ではないというお話だったんですが、(中略)確かに理屈上は増減税中立なんですけども、ある意味、やっぱり前年との比較でいえばネット増税でも あったのです。
 富田教授が言わんとするのは、97年の増税は、単純な増税と扱うべき。景気に与える影響が、減税と相殺されたわけではない。主張したいのは、消費税は景気を悪化させないことです。ちなみに富田教授は、法学部の教授ですが、学位は経済学博士であり専門は財政学です

 富田教授の主張に相槌を打ち、司会役の吉川洋東大教授(専門はマクロ経済理論・ケインズ経済学・日本経済 )も、消費税は景気を悪化させないと主張します。

そもそも我々日本でも最初に3%の消費税が導入されたときのことを見ても、それが経済の中長期的な状況を非常に悪化したという姿は見られない。結局状況次第ということだと思うのです。
 この場合、短期とは消費税が増税され景気が悪化してから回復した数ヶ月間、中期とは一年程度のスパンのことのようです。

 また、吉川教授は、消費税に伴う副作用についても触れます。一見、増税による景気の悪化についての見解かと思われるのですが、その発言の直前で、増税で景気は悪化しなかったと触れてす。どうもいぶかしい。

我々いろいろ議論しているわけですが、現状においては、私はこれは消費税に関する副作用に関する議論だろうと思います。
 この後に続く発言を読むとだんだん分かってくることがあります。

もちろん消費税というのは次の、第二段の議論ということかもしれませんが、大きな議論としては歳入増を図らないと、財政再建は難しいだろうということはあると思う
 議論の趣旨は、税制再建を目的とした歳入増。消費税の増税は、そのための手段。ということでしょうか。

その問題というのは、やはり問題としてあって、それとマクロ経済との見合いということで、確かにそれは重大な問題で、今日そのために議論しているのです
 教授が最初に述べている問題は、財政再建問題を指します。そのための増税とマクロ経済に与える影響が、重大な問題の内容です。

 それにしても、解せないのは、消費税は景気を悪化させないと明言しているのに、マクロ経済との見合いと述べていることです。しどろもどろです。

それは例えて言えば副作用に関する議論であって、しかし、言ってみれば病気本体の議論というのがあるわけ
 消費税が景気に与える影響を副作用と述べ、財政再建を病気本体と述べています。つまり、吉川教授が大切にしたいのは、財政再建です。

 ところが、合理的に考えて不思議なことがあります。この会合に出席している経済学者たちはみな、消費税は景気に影響を与えないと言い切っています。それなら学者らしく、付加価値税が経済に影響を与えないことを証明すればよいのです。そうすれば次のステップ、財政再建に移れます。

 
 消費税が景気に影響を与えないと主張したい学者たちには、社会的余剰と死荷重の理論を否定することが求められます。しかし、議事録を読むかぎり、どの学者たちも社会的余剰と死荷重には、一言も触れていません。彼らは自分たちが論議していることが、社会的余剰と死荷重の理論に関わることだと気付いていないのです。気持ちを再確認する以外、術がないのも無理ありません

 実際に彼らがしていることは、消費税が景気に影響を与えないと感想を述べ合い、お互いの信念を再確認することした。

 また、審議会に出席していた荒井首相補佐官も、消費税は景気を悪化させないと盲信しています。

97年、98年の消費税を上げるときの政策に直接、私は菅さんと携わった者なのですけど、今考えてみると、なんで先行減税やったのかなという、ば かなことをしたなと思うのです。先に減税しておけば、消費税上げるとき少し抵抗が少なくなるだろうと、そのとき思ったんだと思うんですけども、全く意味が なかっ た。
 荒井補佐官の頭の中では、消費税が景気に与えないことが、前提として出来上がっているようです。 だから、97年の増税とセットで所得税を減税したことを、ばかなことをしたと、述べいるのでしょう。ちなみに議事録を見れば分かりますが、菅直人総理も、この会合に出席しています。議事録に発言は残されていないため、総理の目の前で交わされている議論に強い異論はないようです。むしろ、荒井首相補佐官と気持ちは一緒なのでは。

 財政再建のために増税を実施することは、内閣にとっても重要なようです。続けて荒井補佐官の発言です。

国民に理解をしてもらう。国民に理解をしてもらうためには、まず政治家に理解させないとだめなんですけれども。
 しかし、荒井補佐官にも、国民に断言するにはなんらかのためらいがあるようです。

そういう状況にとてもあるような気がするんです。そのときに、消費税を上げても景気は減退しないと、衰退しないんだという、その説明というのは、一見パラドックスのように見えていて、ほんとうに説明できるかどうかという、そこがポイントになるのかなと思います。
 自分でも納得していないことを、他人に納得させることはできません。見方を変えれば、荒井補佐官や管総理は、自分が理解していない納得していないにもかかわらず、国民を言いくるめることで増税を実施しようとしたのです。

 東大の教授たちや高名な学者たちが首をそろえて、消費税は景気を悪化させないのだと信じこみ、どうすればそれを説明できるのか首をひねっていたのが、今回の増税論議の内実でした。

 議事録を眺めれば分かりますが、財務省の主計局長も含むキャリア官僚たち、菅総理や財務担当の政治家が、この会合には参加しています。彼らの目の前でこの論議は行われたのです。

 ひょっとしたら、彼らの中には、議論のおかしさに気付いた者もいたかもしれません。しかし、高名な経済学の教授たちの議論に口をはさめなかったようです。

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 増税論の誤りに気付くには、三つのポイントがありました。そのどれかにでも気付いていれば、こんな議論が成り立たないと結論づけるのは、容易いことでした。

 まず、社会的余剰と死荷重の理論を理解できているかです。消費税を引き上げれば死荷重が増えると分かるなら、今回の増税論は迷信や俗説の類であることは、すぐ理解できることです。社会的剰余と死荷重の理論は、経済学の学部生が習う範囲です。一般にはなじみがなくても、難しいことではありません。

 次に相関関係と因果関係の取り違えに気付くかです。昔、地図の相関関係から大陸は移動すると唱えた学者がいました。ウェゲナーとその大陸移動説です。アメリカ大陸とアフリカ大陸がぴったり合うからです。しかし、大陸が移動する原動力を説明できず、いつのまにか消えてしまいました。彼の理論が現代によみがえったのは、プレートテクトニクス理論が生まれ、海底が移動していることが証明されたからです。今回の議論も、相関関係だけに気付いたままのレベルでは、科学的とは呼べません。因果関係まで踏みこまないといけませんでした。

 最後に、98年に出版された経済白書に目を通せば、最初から、回復期の日本経済が増税よる景気悪化から回復させたことは、理解できたことでした。しかし、増税論者は自分たちの論拠とするこの白書の本文にちゃんと目を通したものは一人もいませんでした。

 なぜ今回のような無意味な騒ぎが起こるのかは、最後となる次回に説明したいと思います。

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