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誤読が招く増税論の誤謬:「次の年の経済白書の本文を読めば正解が書いてあるじゃない」
誤読が招く増税論の誤謬:「次の年の経済白書の本文を読めば正解が書いてあるじゃない」

 参院選のころ、マスコミの話題となっていた消費税の増税論議。消費税を増税しても、景気に悪影響を与えないという主張のもと、民主党も自民党もマニフェストに盛りこみました。

 実態は、杜撰なものでした。発端は97年の消費税増税に携わった政治家たちです。98年の経済白書を精読しておらず、白書が指摘する増税の影響を理解していませんでした。彼らは世間の俗説を鵜呑み。経済学者まで世間の誤解を引きずっていました。

 最近、98年の経済白書のまとめページしか目を通さなかった財政学者の誤読が、有識者の間で広まりました。彼らは、消費税が景気に与える影響の有無について鳩首談義して、理解にあぐねていました。

 にも関わらず、消費税増税に関わった政治家も学者も、テレビで堂々と「消費税を引き上げても景気に影響を与えない」と公言していたのです。

 98年の経済白書の本文を読めば、正解が書いてあるじゃない! 緩やかな景気回復のおかげで元に戻ったてちゃんとかいてあるよ。

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木目画像 「リコールされたトヨタ車と違い、うちは安全です」木目画像

 増税論議の誤りを説明する前に、論拠に取り違えについて、説明したいと思います。

 仮にあなたが、自動車を買いたいが安全性にも気を配りたいとします。そこで、たまたまホンダのカーディーラーを訪れたさい、ホンダ車の安全性に質問したとします。すると業者は次のように返答を返しました。

 「トヨタの車はリコールされましたが、うちはそうじゃありません。だから安全です

 この返答に納得できますか、無理ですよね。ここで業者が説明しているのは、トヨタ車には、リコールされるような危険な不具合が発覚したことです。ホンダ車の安全性には触れていません。論拠のすり替えです。

 (注:具体的な仮定にしたいから、実在の社名を使ったまでです。話そのものはフィクションです)


 ここから本題に入ります。増税論議では、論拠の取り違えが、そうと気付かれないまま、まかり通っています。簡潔に議論のやり取りを説明すると、こうなります。

 A君「消費税を上げると、やっぱり景気に悪影響がでるよね。だって、97年の増税でもそうだったじゃない」

 B君「いいえ、それは違います。経済指標を時系列に並べると、97年の景気の悪化は、信用不安の発生のせいであることが分かります」

  B君「だから消費税を上げても、景気には無関係です

 次のくだりにおいて、どうして経済の専門家の間にこのような誤りがまかり通ることになったのかを説明したいと思います。

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木目画像木目画像論拠は”97年景気悪化の原因は信用不安”に摩り替えられた

 次に挙げる資料(PDFファイル)は、東大の井堀利宏教授が今年5月18日に開かれた財務省の審議会で配布した資料の一部です。増税論議を扱っているのが、この審議会です。

消費税 − 井堀引用1

 この資料は、平成十年度の経済白書(97年の増税の翌年です)の表紙をめくってすぐにある総括をまとめるページの一部を抜き出し、井堀教授が下線部を引いたのものです。

 経済白書のこのくだりは、97年の景気悪化の原因は信用不安をだとしています。それを説明している文章が、井堀教授が下線を引いてるくだりです。

 審議会の議事録に、資料のこの部分についての井堀教授のコメントが残されています。

同じようなことが書いてあって、消費税率の引上げというのは、駆け込み需要というのはあるわけですけれども、その後の景気低迷というのは、むしろ金融システムの信頼の低下、アジア通貨危機の影響が大きい。
 10年以上に渡って、97年の景気悪化の原因は消費税の増税にあると信じこまれていました。これは、増税に携わった政治家も経済学者も一緒でした。一言でいえば、俗説が流布していて、当事者も専門家もすっかり勘違いしていたのです。

 ところが現在の経済学者たちは、この経済白書の記述に行き当たり、すっかり困惑しました。だって、今までは、増税の悪影響で景気が悪くなったと説明されていたからです。こうして、手探りで議論が始まりました(どんないい加減な手探りかは、次回に書きます)そうして、うかつにも論拠の取り違えをはじめました。

 「消費税を増税しても、景気には影響がないんじゃないの?」

 以下の文章は、池田信夫氏の書いたブログ記事”消費税の引き上げはもう先送りできないからの引用です。”

こういうとき「選挙で負ける」というのが恥ずかしい政治家が持ち出すのが「不況のとき増税すると景気が悪化する」という言い訳だが、これは嘘である。18 日の財政審議会で井堀利宏氏(東大教授)が指摘したように、1997年に消費税率を上げたことで「景気が腰折れした」という俗説は、実証研究では棄却され ている。
 みんな井堀教授の始めた誤解に気づかず、大風呂敷を広げました。

 次のくだりでは、98年の経済白書のページをくりながら、増税の真実を説明したいと思います。なお、引用された経済白書の最初のくだりは覚えておいてください。重要です。

 ”バブル崩壊後の長期の景気停滞の後,我が国経済は緩やかながら回復を続けていました。”

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木目画像木目画像経済白書を読めば、増税の事実が分かる

 事実関係を調べるのは、とても大切なことです。そうでないと現実がどうなっているのか、正確な知識を持てませんからね。しかし、日常暮らしている中で、自分の眼で確かめることができることは、限られています。そこで、その道の権威にお伺いを立ててみます。本に眼を通すのです。

 これは井堀教授も一緒です。財政学が専門の教授は、経済白書に目を通しました。この本には、日本経済の現状について、専門家の分析が書かれています。そうして、教授は事実に気が付いてしまいました。景気の悪化は増税のせいじゃないんだって。

 さて、わたしたちは、実際に経済白書に目を通すことで、教授が読み落とした記述を拾い、97年の日本経済についてより深く理解することができます。

 経済白書の最初のページを開いてみましょう。すると目次のページになります。

98経済白書目次


 ”平成10年度年次経済報告(経済白書)公表に当たって”は、井堀教授が資料に引用したくだりが記述されてるパートです。まとめの部分です。

 97年の景気悪化の具体的に説明するくだりを、目次から探し出しましょう。目次を眺めると、最初の章に”景気の停滞が続く日本経済”の節が立てられいるのが分かります。わたしたちに用があるのは、”(景気回復の好循環はなぜ断ち切られたか)”の分節です。


 このくだりは、次のようなあらましです。

年初の日本経済の状況


日本経済は96年半ばから景気回復が本格化し,景気回復期にみられる好循環が現れて,それまでの景気刺激策に支えられた不安定な回復過程から,民間需要中心の自律的回復過程に移行しつつあった。
 97年当時、日本経済が景気回復期にあったことを、白書は指摘します。

”好循環メカニズム”


 次の二つの流れがかみ合っていることです。

 勤労者の所得が増えた→家庭の消費が増えた→企業もそれを当てこんで生産を増やした→だから勤労者の所得も増えた

 企業の収益が良くなった→利潤を設備投資に回した→生産が増えた→企業の収益がまた良くなった



消費税の影響


景気は回復に向かったが,反動減の影響が長引き,回復のテンポは緩慢であった。ただ,この時点では好循環メカニズムが再び働きつつあり,また雇用は緩やかに伸び,円安基調のもとでの輸出採算の好調もあって企業収益,設備投資は堅調で,景気下支え役を果たしていた。
 白書が指摘することは、消費税の増税は需要が冷えこませ、そこから回復できたのは、当時の日本が回復期であったからです。

景気の悪化の原因

「悪いニュース(注:信用不安)」が加わって,家計や企業の先行き不透明感を強め,リスク回避的な行動をとらせることとなった。家計の消費性向は大幅に低下した。また,金 融機関の貸し渋り行動が強まったこともあり企業のマインドが悪化,設備投資や雇用が鈍化して,プラス要因は外需のみとなった。こうして好循環の連鎖は再び 各所で断ち切られた。
にも関わらず日本経済が悪化したのは、信用不安のせいで、経済活動が力を失ったからだと、白書は指摘します。

 
 ここまで経済白書に目を通すと以下のことが分かります。

 1.増税の悪影響は、緩やかな景気の回復によって吸収された
 2.人口を膾炙した”97年の増税のせいで景気が悪化した”は、最初から否定されて
     いる
 3.レジュメを作成して審議会で配布した井堀教授は、白書の本文に目を通していな
     い。


 97年、増税の影響で景気は悪化。しかし、96年から続く緩やかな景気回復のおかげで、景気は元に戻りました。しかしながら、白書が伝えるこの事実は、省みられることはありませんでした。

白書の記述を一知半解した井堀教授は、過去の俗説を葬りさるつもりで、あらたな俗説を作り出してしまいました。

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木目画像木目画像井堀教授は、白書のまとめページに目を通しただけ

 井堀教授が、経済白書中の増税の影響をまとめた文章どころか、目次にも目を通していないことは、間違いありません。白書の分析内容と審議会における井堀教授の発言は、相矛盾するからです。

 まず白書は、消費税増税の駆けこみ需要について、このような節を目次に立てています。

98経済白書目次2

(大きかった駆け込み需要)

 内容は、9年の消費税導入時より、駆けこみ需要は大きかった。導入時は、併せて物品税が廃止されたため、消費者が、耐久財の購入を見合わせ、導入後に先送りしたためだ。今回はそんなこともなく、駆けこみ需要はずっと大きかった、とまとめています。

 一方、審議会の議事録を読むと、井堀教授はこんな発言を残しています。

駆け込み需要も相当限定的かなと思います。
 その根拠については、以下の発言を井堀教授は残しています。

(注:97年の)消費税率の引上げというのは、前もって先行減税のときに決まっていましたので、在庫のある程度のものというのは前から消費が増やすことができます
 これを理屈倒れを呼ぶんですね。白書を読めば数字を挙げて、駆けこみ需要の大きさを教えてくれます。97年の駆けこみ需要の規模は、導入時の倍ぐらいありました

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 ここまで読んだみなさんにも、異論があるかと思います。消費税増税後に元の水準に戻る経済指標を見たとき、どう受けとめれば良いのか。基本となる資料の読みこみが足りないと言う稚拙なミスを、東大の教授や政治家たちそのほか有識者たちが犯しているのはなぜなのかは、次回にします。

author:taiga, category:-, 21:00
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