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トランプ離れ(創発を生むミーム 2016/12/01号)
 創発を生むミーム 2016/12/01号の「トランプ離れ」の全文記事です。
 
2016/12/01号
トランプ離れ

 今年11月のアメリカ大統領選で共和党候補のドナルド・トランプ氏が民主党のヒラリー・クリントン候補を破り、当選しました。

「アメリカを再び偉大にする(Make America greatful again)」をキャッチフレーズに掲げ、支持者たちから「チェンジ! チェンジ!」と迎えられた当選でした。その背景には、日本以上の格差社会のアメリカでグローバルな繁栄から取り残されて没落した層が、なんとかしてほしいと切実に願い、既存の政治勢力の枠にはまらないトランプ次期大統領を支持したことがありました。

 さて、まだ就任式も終えていませんが、トランプ次期大統領の賞味期限切れは来るのでしょうか。トランプ次期大統領には支持離れを招く三つのアキレス腱があります。「アメリカを再び偉大にする」の戦略性の欠如、トリクルダウン政策、保護主義の大義名分の欠如です。

 トランプ次期大統領は「アメリカを再び偉大にする」をキャッチフレーズに大統領選を戦いました。選挙戦略としては成功でした。しかし、選挙が終わりホワイトハウスに入るなら、選挙戦略としてではなく、政治戦略としてこのキャッチフレーズを展開させなければいけません。具体的には、「現状の何が問題なのか」を見定め、「あるべき理想の姿」を描き、「理想の具体化のための政策」を定めることです。

 しかし、トランプ大統領は、自身のキャッチフレーズについて、支持者の心を満たして喜ばすことには使えど、具体的な政策として提示したことはほとんどありません。報道によれば、支持者もよく分かっていないそうです。また、このキャッチフレーズでは、大統領選の勝利演説では一回も触れられませんでした。今後、具体的な政策として発表された時に、支持者が思い描いていたものと食い違うかもしれません。

 例えば、支持者の落胆を誘うような、排外的で強硬なもの(支持者は選挙期間中のトランプ次期大統領の暴言は真剣なものではないと受け止めていました)かもしれませんし、支持者から賛同される現実的な内容かもしれません。もちろん、大統領選が終わってからどんな政策が下されるのかやきもきするより、最初から政策で選んだほうが、支持者には合理的だったでしょう。

 また、トランプ次期大統領は税制面ではトリクルダウン減税を取っています。所得税の最高税率を39.6%から33%に下げます。Tax Policy Centerの試算によると、減税の恩恵の半分は、年収70万ドル以上の上位1%の層が蒙るそうです。低所得層の所得税も無税になります。しかし、現在でも45%が所得税を払っていないのが、50%になると程度だと見積もられています。また、連邦税のうち相続税を廃止します。アメリカの税金は連邦税と州税の二本立てです。連邦税の相続税の税率は2015年で40%です。控除額(控除とは税金のかからない金額)は543万ドルです。アメリカの相続税は金持ちから取るものです。州税の相続税は変わりません。また、法人税を35%から15%に引き下げます。アメリカは日本同様、株主資本主義の国ですから減税分の儲けは株主に還元されるでしょう。

「夢と消えたトリクルダウン」でも触れたように、日本ではトリクルダウンは起こりません。アメリカの場合は調べていませんが、日本同様に、トリクルダウンは起こらないでしょう。アメリカの上位10%の層が、所得の50%、資産の70%を占めています。金融資産だけなら、上位1%の層が42%を占めています(いずれも2007年のデータ)。そうすると、トランプ次期大統領は格差解消を期待する支持者に対して、格差拡大の税制を与えることになります。

 トリクルダウン減税は選挙期間中に発表されたものです。もし本当に実施されるのなら、トランプ次期大統領にとって格差解消を願う支持者は、自身が権力を握るために暴言で気持ちよくさせる票でしかなかったのでしょうか。支持離れを招くでしょう。

 ちなみにヒラリー候補はトリクルダウンは起らないと発言して金持ち増税を公約しました。ただ、大統領選ではトランプとヒラリーのどちらがうそつきかというくくりで論じられていたので、有権者は政策で選べなかったかもしれません。

 また、保護主義の大義名分の欠如です。自由貿易は輸出入の双方の国の消費者にメリットになります。具体的には双方の国で、国民の消費が増えることです(経済学で扱う国の豊かさとは、国民の消費が増えることです。神の見えざる手で有名なアダム・スミスの時代からそうです。いくらお金を貯めても、使わなければ幸せにはなれないからです)。なぜ国民の消費が増えるのかというと、双方の国が生産性の高い産業に特化できるからです。自由主義にはこのように国を豊かにする大義名分があるのです。一方で保護主義にはそのような大義名分はありません(勝ち組負け組に分かれる副作用がある程度です)。そうなると、実際に保護主義を政策化して実行する段階で、自由貿易を掲げるグローバル派と衝突することになります。権力を駆使して実現することは可能でしょう。しかし、そうすれば、アメリカ国民を分断することになります。

 もちろん、グローバル派は負け組のことを自己責任で済ませていて、その負け組の労働者たちがトランプ次期大統領を支持したわけですが。負け組は市場からの退場をというのが自己責任の原則ですが、負け組だからといっても、人間は生きていかなければいけません。負け組の逆集です。

 それではTPPはどうなのか。TPPは純粋な自由貿易ではありません。ISD条項のような国の主権を制限する取り決め(国の規制が企業の損失になれば、世界銀行傘下の委員会に訴えて、賠償金を取れる制度)があったり、 規制整合性小委員会のようなグローバル企業が参加して規制撤廃を国に勧告できる制度(消費者団体は参加できないため、消費者の権利はおざなりにされます)があったりして、自由貿易ではない部分があるからです。

この記事はトランプ次期大統領の政策面を公開情報から分析しました。トランプ人事から今後を占う報道ならいくつもありますが、私にはそんなインサイダー情報はよく分からないので、分析から外しています。

 この記事が配信される時点でトランプ丸はまだ進水もしていません。それなのにもう賞味期限切れはどうなのかとも思ってしまいます。しかし、演説(と毒舌)で有権者の心を気持ちよくするだけでなく、ビジョンを具体的な政策の形にすることが民主主義国家の政治家には求められます。そうすると、トランプ次期大統領の政策には、具体性に欠け、支持者の意向に反し、国民を分断する面があることが分かります。アメリカ国民がこの問題に直面した時に、支持者のトランプ離れが起るかもしれません。もちろん、トランプ次期大統領の就任は来年1月20日、閣僚人事が決まり政策が動き出すのは、慣例では6月以降です。それまでに立て直すかもしれません。
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