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核保有の前に済ませることは?
外交問題解決策として核保有が議論されている。
しかし、日本の核保有は東アジアに核の競争をもたらしNPT体制を壊してしまう。一方、核兵器は外交問題解決に切り札にはならず、いたずらに国力を損ねる結果になる。ニュークリア・シェアリングも核抑止力をもたらすと誤解されて広まっている。外交問題解決のためには、合意の質を高めることだ。


核保有は悪手

田母神俊雄氏は、日本が核武装した方が安全だと主張しています。しかし、彼は日本の核保有が周辺国に及ぼす影響を軽んじています。

日本の核武装は、北朝鮮に核保有の正当性を与えてしまいます。先に核保有したのは北朝鮮なのに思われるかもしれません。似たような例が南インドで起っています。1998年のインドの核実験に対抗してパキスタンが核実験を行いました。そのことに、核実験を指示したインドのパジパイ首相(当時)は「やはり脅威は存在した」とコメントしました。後知恵で自己正当化を図ったのです。北朝鮮も同じことをするでしょう。今回の北朝鮮の核実験では、韓国でも核保有議論が起きました。日本が核保有に動けば、韓国も核保有に動く成算が高い。日本の核保有をきっかけに東アジアで核競争が起るでしょう。これは避けなければなりません。

次にNPT体制に打撃が与えられます。唯一の被爆国である日本が核を持てば、核保有を計画している国に名分を与えてしましまいます。イランです。現在、イランの非核化のためにアメリカが外交努力を続けています。そのための努力が水の泡になってしまいます。イランの核兵器保有の狙いは、欧米の圧力を受けることなく中東の武装勢力に軍事援助を行うことだと考えられています。そうなると中東で再び動乱が起る危険が高まります。これは日本にとっても良いことではありません。


次にアメリカの反発です。アメリカは北朝鮮やイランの非核化のために外交努力を払っている。日本が核保有すれば、これらの国に核保有の名分を与えるのだ。快くは思わないだろう。オバマ大統領は常識人だがアメリカの国益が損なわれるならなんらかの抗議と圧力があるだろう。
例えば日本に提供している核の傘とミサイル防衛(MD)の傘を見直すと通告がくることだ。弾道ミサイルの発射を察知する早期警戒衛星を日本は持たない。アメリカと情報を共有しているのだ。今年の北朝鮮のロケット打つ上げのさい、日本のイージス護衛艦やパトリオットPAC3が迎撃配備された。これらの兵器も、早期警戒衛星からの情報がなければうまく機能しない。

核をアメリカをニュークリア・シェアリングする意見にも3つの無理がある。ニュークリア・シェアリングとはアメリカとの共同作戦において、平時は核攻撃の訓練をつんだ自衛隊が、これも平時はアメリカが管理している核兵器を用いて核攻撃を行うことである。まず集団的自衛権に抵触する。次にNPT条約に抵触することだ。この条約では核兵器の移転を禁じている。自衛隊に核兵器が委ねられた時点で、条約違反となる。最後にニュークリア・シェアリングは核抑止力のための協定ではない。アメリカがニュークリア・シェアリングしている核兵器はすべて戦術核兵器だ。NATOのニュークリア・シェアリングが仮想敵とするのは、ロシアの地上軍なのだ。訓練を積むのも通常軍です。日本がニュークリア・シェアリングするなら核爆弾を搭載するのはF2戦闘支援機になるでしょう。核爆弾は在日米軍基地に保管され、アメリカが核攻撃を承諾すれば自衛隊に引き渡される。ニュークリア・シェアリングは核保有論者が主張するような核抑止力を得られるものではないし、アメリカが日本に核の傘を提供しない場合に代わりになるものでもない。



核兵器は北朝鮮との交渉の切り札ではない

倉田英世氏は、日本が核を持たないから北朝鮮にバカにされるのだと主張しています。しかし、圧倒的な核戦力を持つアメリカも北朝鮮には翻弄されています。北朝鮮の危険な交渉ゲームは、相手国が核を持っているかどうかは関係ありません。日本が核保有しても北朝鮮にバカにされたら、今度はどうするだ。


核兵器保有は軍事費を削減しない

核兵器保有は、自衛隊をコンパクト化でき経費節約になるという主張も無理があります。アメリカのGDPに占める軍事費の割合は、朝鮮戦争が勃発する1950年は5%、冷戦が終結する1987年は6.1%で、約40年間、さして変わっていません。この間、朝鮮戦争・ベトナム戦争の時代の戦費と米ソ核競争が激化した50〜60年代に10%を超えているのが目立つぐらいです。自衛隊が核を保有するとどんな部隊を削減できるのでしょうか? 冷戦で分かったことは、核兵器は通常兵器の代わりにならないことです。東アジアは冷戦の対立構造が残っています。防衛費削減の効果は期待できません。


核兵器は外交問題解決の切り札にはならない

ネットで散見する主張を読むと、日本が核保有すれば、北方四島の返還や中国の脅威も解決するというものがあります。ロシアがアメリカの核の前に引き下がったのは、旧ソ連時代のキューバ危機の時だけです。日本がアメリカ並の核抑止力を有しても返還交渉が有利に進むとは考えづらい。最近の中国の国力伸張も経済の成長による所が大きい。それを核兵器で抑えこむことは無理です。核保有論者の主張は、核の脅威にそなえた国防力の強化を求めるものではなく、こういった日本の抱える外交問題を政治家が解決できないことへの不満のはけ口なのかもしれません。もしそうなら、核保有は危険なゲームと呼べるでしょう。


北朝鮮の問題は振り出しに

政治家は選挙民の意見には逆らえません。ですから世論が強硬政策を求めれば、民主主義政府ではそれが実現します。別の見方をすれば、政府のとれる外交政策を縛ってしまう。合意の質を高めることが交渉事の目標だとある本に書いてありました。別の本には、交渉では感情を無視することはできないと書いてありました。日本の面子を満たし北朝鮮の面子を満たし双方の合意の質を高めることを考えないと、日朝間の問題は解決できないのではないでしょうか。北朝鮮がアメリカに核保有国としての待遇を求めていることが明らかになった。北朝鮮の核実験は対米外交カードではなかったのだ。北朝鮮が核保有国の立場をどのように見なしているのかまだ分かっていない。いくらでも想像できる。東アジアでの発言権を強めたいのかもしれないし、後継者の手柄にして箔付けしたいのかもしれない。それが分かれば、北朝鮮の非核化の途が開けるだろう。

ヒラリー国務長官は6月7日のテレビインタビューで「北朝鮮に対して今、重要で効果的な手を打たなければ、北東アジアで軍拡競争が起きてしまう」と述べています。日本が核兵器に頼っても事態は好転しそうにない。


author:taiga, category:提言, 21:52
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核保有の前に済ませることは? by ドン・キホーテの館
ドン・キホーテの館 核保有の前に済ませることは? 2009.06.10 Wednesday taiga氏の「ドン・キホーテの館」からトラックバックを頂きました。  日本の核武装論が巻き起こす悪影響について論じておられす。  「核武装化のドミノ現象」=「核拡散化」、「米国
『海舌』 the Sea Tongue by Kaisetsu, 2009/06/11 12:10 AM